2009 Cape Epic

Absa Cape Epic 2009

挑戦

2009シーズンのMTB全日本選手権を最後に、プロ選手活動を引退する自分に残された貴重なチャンスの場に、MTBのステージレースという未知のジャンルを選んだ。
“Absa Cape Epic(岬の叙情詩)” というタイトルというこのステージレースは、
ズバリ全てのステージを通して完走することが出来れば、英雄伝説に名を連ねることができるという意味を込めた、過酷でチャレンジングなものだ。
8日間のレース、走距離685km、積算登坂14,663m、という壮大なスケール!
のルートを移動しつつ、アウトドアキャンプでの生活をしながら走り抜けるのだ。
そしてこのレースの特長ともいえるスタイルで2人のペアチームで争うことになる。そのライダーの車間が2分離れたらペナルティという厳格なもので、トラブルが起こる確率も2倍、失速する確立も2倍となるが、トラブルがあっても2倍の力で解決して走りぬけ!というメッセージ込められているのだろう。
これに600チーム、1,200人!という世界46カ国から世界チャンピオンからアマチュアまで、世界中のチャレンジャーが集まる。中には、トランザルプ、トランスロッキーという世界有数の山岳ステージレース、アクロス座アメリカという大陸横断レース、トライアスロン、アイアンマン、はたまた様々な種目のオリンピック代表など世界トップクラスのエンデュランス系アスリート達が含まれている。
自分も、北京オリンピック日本代表の片山梨絵選手からの要請により、男女混合チーム
“SPECIALIZED Japanでの参戦を快諾、出場に至った。
もちろんこの過酷なレースへの挑戦、という意味合いが大きいのだが、もう一つ自分の目で、脚で確かめておきたいことがあったのだ。2008XC世界チャンピオンであるスイスのクリストフ・サウザーも参加していて、シーズンオープニングのレースとして毎年参加している。その彼とは、ワールドカップなどで一緒させてもらい身近に接しさせてもらっているが、レースではスタートから別次元の速さで圧倒的な差がついてしまう。その速度差はレースで分かっている。しかしその差を生み出す差は何なのか?その疑問解消の一つとして、このレースに注目していた。実際にサウザー選手も、このレースはシーズン序盤の最高のトレーニングだ、と語っていたことから、このレースがどれくらい過酷で、それをどんなスピードで彼は走るのか、そこから、彼と自分との差を見極めたいと考えたのだ。
何が待ち受けているのか、期待と興奮とともに南アフリカに飛んだ。
全8日間のステージレースはまずプロローグ、タイムトライアルから始まる。距離は19km、登坂は650mだ。600チーム、1,200ものライダーが一斉にトラブルなくスムーズにスタートするためには、実力別の序列であるとが望ましい。そのため、チーム単位でタイムトライアルを行い、そのフィニッシュタイムで、翌日のステージ1のシーディングを行うのだ(ステージ2からは、前日までの総合成績によりソートされていく)。

Prologue

そのプロローグ会場はケープタウン市中の有名なテーブルマウンテンの麓での開催であり、ライダ-の走る悦び、爽快な眺め、都市近郊の盛り上がりなど、エンターテインメント性もかなり重要視されている。
SPECIALIZED Japanの戦略は、というと、まずは無難にプロローグをこなし、翌日からは、24時間ソロMTBレースの世界チャンピオンという屈指のエンデュランスアスリートである、レベッカ・ラッシュのチームをマークして、初経験のステージレースのペースを掴もうと試みた。
プロローグはその目論見どおり、7位でのフィニッシュとまずますの滑り出しだ。とはいえ、ミックスクラスのトップチームのと差はやや開き、レベルの高さを垣間見る。

  • クラス:7位  走行時間 0:55.41,2

Stage1

ステージ1はプロローグの結果から、Bゾーンでのスタートとなる。世界チャンピオンを含むトップカテゴリーの選手たちのAゾーンに続く位置取りなので上々のスタート位置だ。
距離は112km、登坂は2769m。このステージはスタート後は戦略どおりペースの上がるミックスクラスチームをロックオンして前に、前にと順位を上げていく。そして、レベッカチームに追いつき、こちらが得意の急斜面の登りで追い越していく。途中、片山選手のクラッシュがあったが気迫の走りでカバーし、追い込み走り続け、遂には5位まで順位を上げてフィニッシュ。正直3位に入ったのでは?と思えるほどの快走だった。

  • クラス:5位  走行時間 6:10.13,1

Stage2

しかし、翌日はステージレースの厳しい洗礼を受けた、身体の疲労だ。ステージ2は、距離は110km、登坂は1527m、と距離は前日同様長いが、登坂が穏やかだ。このため平坦高速集団走行がかぎになると思い、フロントラインであるAゾーンスタートであることを利用して疲労した身体に負担をかけないようにペースを落としていっても、次の集団、次の集団と乗っかっていき、遅れを最小限に止める作戦だった。
しかし、前日に追い込んだ身体の疲労はかなりのダメージとして残ってしまい、ペースが上がらない。その上に、パンクが多発してしまったことから、順位を下げてしまうが、辛くも走りきり、翌日に繋ぐ。

  • クラス:12位  走行時間 5:27.37,8

Stage3

ステージ3は距離73kmと短いのだが、登坂は1976mとビッグだ。そして今日一番のピークに向かう登りはハイクセクション、つまりバイクに乗れないほどの急坂をバイクを担いで登りあがるのだ。今日からは戦略も変更した。他チームをマークしてペースを作り出すことはやめて、自分達が一日、一日を走りきれる最大努力のマイペースで走るスタンスにチェンジ。この長丁場を走りきるためには必要な措置だ。その甲斐もあり、辛く厳しいハイクパートを1時間登りきり、疲労の身体でも順調に走りきることが出来た。

  • クラス:10位  走行時間 4:39.46,2

Stage4

そして迎えたステージ4。距離は再び伸び114km、登坂は2202mだ。リタイヤの山場といわれていた3日目をこなして、この日を迎えたが、続くステージ5とあわせて、コースの本当の山場はこのステージ4、5であると確信するほど厳しい両日だ。
そしてここでもさらなる試練が待っていた。
幾重に続くのぼりを越え、疲弊した片山選手をプッシュ&プルすることが多くなってきて、身体の疲労も各部にピンポイントな痛みとなって感じ始めたコースの中盤、バイクもピンポイントなダメージが現れた、リアのシフトワイヤーが破断したのだ。これによりリア変速不能で、フロント3段変速のみでゴールを目指す。やや重い、重い、かなり重い、のギア変速で走りきれない登りは、素直に押してランニングだ。しかし、後半は疲労でウォーキングとなる。。。辛くもこのステージを走りきったが、身体の疲労は二人ともピークに達していた。

  • クラス:14位  走行時間 6:14.02,7

Stage5

昨日に続くロングステージだ。走行距離は111km、登坂は2233mと容赦ない。昨日の極度の疲労からは、当然回復していない。そんな日でも、登りはどこまでも続いていく。登れば登るほど高まる疲労、下りも暴れるバイクをコントロールすることがシビアになってくる。エネルギー消費も大きい。毎日平均4000㌔㌍以上の消費をしているので、食事や補給は死活問題だが、疲労が溜まると食欲も落ちてきて、十分にエネルギーが確保できないタイミングがこのステージ途中できてしまった。もうほとんど止まりそうなスピードで、エイドステーションにたどり着く。冷たいボトル、瑞々しいフルーツをとりリフレッシュ、パワーバーやパワージェルでエネルギーを再充填して再び走り出す。レールウエイに沿ったアップダウンの連続するジェットコースターのようなセクションで、リズムの合う地元ライダーと合流して、絶妙の走りでペースを回復。マウンテンバイクの楽しさを噛締めながら、ゴールを目指すことが出来た。
しかし、試練は続く。翳っていた日差しが顔をだし、容赦なく照りつけてくれる。体温上昇のため水を被り、積極的に水分補給に心がける。ピークはまだか?ゴールはまだか?それは遠く、ボトルの水は底を着く。喉が渇く、視界が陽炎で揺らめく。キャメルバックの僅かな残りをボトルに移し変え片山選手にわけ、自分は農場の脇のりんごを失敬して九死に一生を得る。

  • クラス:15位  走行時間 6:09.32,6

Stage6

山場は乗り切った。あと今日さえ乗り切れば、最終日のみ。そう思うと頑張れる。距離は86km、登坂は1546m。楽ではないが、ここまで着たら、きっと走りきれる、そんな自信が涌いてくる。
岩山を登って、登って、ガレ場を一気に下る。一番テクニカルなコース設定だ。コースの終盤にはシングルトラックが長く続いた。ここでMTBレーサーの面目躍如。アドベンチャー的なエンデユランス系ライダーをビュンビュン、追い越し、追い抜いていく。爽快だ。一気にテンションが上がり、走れば走るほどペースが上がっていった。ミックスクラスの先行ライダーも視界に入り、一気に加速してチェイスになる。そして追いつき、追い越す。
ゴールまで逃げ続ける。後ろは振り返らない。ただ全力を尽くすのみ。疲労した身体でも、前を負う気概は失っていない。レース魂は気持ちよいものだ。

  • クラス:12位  走行時間 4:45.55,2

Stage7

いよいよ最終日である。このゴールがComplete Finishとなるのだ。前ステージを通しての完走。感慨深いスタートであると共に、この素晴らしき日々が終ってしまうのかと惜別の情もよぎる。距離は60km、登坂は1760mだ。
今日は攻める!二人の一致した意見により、最初から出来る限りのスピードで前を負った。レースなのだ、戦い、出し切るのだ。幾重にもつづくアップダウンを駆ける。ミックスクラスチームを捉え、突き放す。皆辛そうだ。しかし、最後までしっかりと追い込み続けている。負けない!ペースをキープし続ける。そして景観保存区間をハイクで越えていくときに、リズムの変調をきたし、ペースが落ち始める。見えていた背中が大きく離れていく。ここからは自分との戦いだ。最後まで、走りきるのだ。辛い、脚を緩めたい、しかし、後ゴールに向かって一心不乱にペダルを漕ぐ!漕ぐ!!漕ぐ!!!ラストの花道が見えた。
物凄い観衆が、割れんばかりの歓声が辺りを包む。ゴールだ!!!
身体がスーッと軽くなる。飛ぶように、跳ねるようにフィニッシュゲートをくぐり抜ける。嬉しい!楽しい!!大好き!!!歓喜の想いが込上げる。先着したライダーも皆一様に興奮して、よくやった、よくやったと話しかけてきてくれる。カメラも、TVも押し寄せる。
すごい、すごい。やった、やったんだ。

  • クラス:7位  走行時間 3:31.56,9


全てのステージを走り終えた結果は、クラス12位 総走行時間は37:55.17,0に及ぶ。


順位という数字を超えた満足度、達成度だ。困難な状況を走りきる、それを達成した者はすべて英雄だ。このレースのテーマを身を持って理解することが出来た。
そして、世界トップクラスとの差を生む要因もいくつも掴めた。
彼らは圧倒的なスピードを持つと共に、圧倒的な耐久力も持つのだ。その耐久力をもって、継続的なトレーニング消化していくことで、さらなるスピードに磨きをかけている。
そして、レースを楽しむ。サウザーはトラブルで順位を落としながらも、チェイスを、競り合いを、そしてレース、ライディングそのものを楽しんでいた。
これらは、今回再認識したが、同様に自分達も持ち合わせていると自負している。
ではなぜ?最大の要因は“民族性の違い”だと痛感した。
このイベントには多くのアマチュアライダーがでている。普段は仕事に勤しみ、年に一度のビッグチャレンジとしてこのレースに臨む、トップアマチュアではなく極々普通の市民レベルの人たちだ。その彼らが、遅い人では60時間をかけてでも前ステージを走りきる。そのフィジカルとしての耐久性、そして、困難な状況を楽しめるメンタリティ、その共通項を広く皆が持ち合わせているのだ。
多くの人がそれを有し、そこから生え抜きの人がプロになり頂点を目指す、それが当たり前の民族性には脱帽であり、日本人では遠く及ばない。
しかし、自分達はそれに近づけているし、日本人にも広めていけるはず。耐えるメンタリティ、楽しめるフィジカルはあるのだから、さらに加えて、耐えるフィジカル、楽しむメンタリティを持ち合わせれば、そこから代表される日本選手もきっと世界レベルに到達できるはず。
このような困難な状況を擬似的に体験できるスポーツは素晴らしきエンターテインメントだと実感した。バイクをスポーツとして広げたい、そして、またこのケープエピックを走りたい、そう願わずにはいられない。